1人用ボイスドラマ台本
女装男子(かわいい系)
配役

・女装男子(かわいい系)

***


ほんと? ありがと。
でもねえ、ボク、もうそう言われるの慣れちゃってるんだあ。
だってボクがかわいいのは事実でしょ?
だからお店のお客さんだけじゃなくて、ふつうにしてても学校とかでよく言われるんだよね。
あ、実はボク、まだ学生なんだ。
どこの学校かはナイショ。
でも二十歳ってことになってるから、よろしくね。
そう、だからみんな、ボクのことかわいいかわいいって言ってくれる。
もちろん最初はね、言われるたびにうれしかったよ。
かわいいって褒め言葉でしょ。
なにもしなくても言われるけど、かわいい格好したらもっと言ってもらえる。
ボクのこと肯定してもらえるんだって思ったら、もっとかわいくなりたかった。
でもね、あるとき気づいちゃったんだあ。
かわいいって褒め言葉でもあるけど、超えられないラインを引かれるようなものでもあるんだなあって。
ん? ううん、そうじゃなくてね。
……ある人にね、言われたんだあ。
「お前はかわいいよ」って。
うん、そこだけ聞いたらそう思うよね。でも違うんだ。
かわいいよ、のあとに「だけど」ってつくの。
かわいいけど、でも、お前のことは受け入れられない。そういう意味。
いくらかわいくても、きれいでも、
だからといって好きになってもらえるわけじゃないんだって、そのときはっきりわかった。
それでもうひとつ気づいたんだ。
ボクがかわいいって言われたかったのは、本当にそう言ってほしかったのは、
みんなにじゃなくて、その人にだったんだ、って。
だからそのために、いろいろがんばってたんだなあって。
気づいちゃったんだよね。
でもボクがどれだけ努力しようと、かわいくなろうと、
もう意味がないんだなって、そのときにわかっちゃった。
ボクはさ、確かにかわいくなりたいけど、でも女の子になりたいわけじゃないんだよね。
その人に好きになってほしかったけど、でも女の子としてじゃないんだ。
ボク自身を見てほしかったし、好きになってほしかった。
だからそう言われたとき、もしボクが女の子だったらとか、そういうのは一切考えなかった。
後悔とかもなかった。
ただただ、ボクじゃ駄目なんだなあって、それだけわかった感じ。
しょうがないよね。
そう言われたって、ボクがボクであるのを変えることはできないんだから。
うん、だからね、このお店に来たんだ。
せっかくのかわいいを無駄にはしたくなかったからね。
ここなら、そういう趣味のお客さんがいっぱい来るから、いっぱいかわいいって言ってもらえるでしょ。
そしたら今までのことが無駄にならなくて済むかもって、
なにかが報われるかもって、そう思ったんだよね。
……でも、そんなに簡単なものじゃなかったのかもね。
だってボクがお兄さんに声かけたの、あの人にちょっとだけ似てたからなんだ。
でもやっぱり違った。当たり前だね。
お兄さんはお兄さんで、あの人じゃないんだから。
けど、やっぱり似てるからかな……なんか、お兄さんと話してるとちょっと安心するんだよね。
ついいろんなこと話しちゃう。
こんな話したの、お兄さんがはじめてなんだよね。
……ねえ、お兄さん。
ボク、もう少しで勤務時間終わるんだ。
そのあと予定ないんだけど……お兄さんは?
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